会員投稿  安倍首相の軍事戦略「セキュリティー・ダイヤモンド構想」    寺山光廣 記

昨年の安保法制反対運動では、法制の内容や実際にどのように使われるのかという問題が国会で議論されました。しかし、国会前の反対運動ではむしろ、法案の根底にある集団自衛権の違憲性と非民主主義的手続きの問題が中心になりました。その事自体は立憲主義・法による統治を守る上でとても重要なことで、市民運動の中心課題になるのは当然ですが、一方では、安保法制が必要だ、集団自衛権で国民の安全を守らなければならないと考える人々に対する説得力のある論理を形成できなかったと思っています。


集団自衛権イコール日米同盟強化という視点でのみ語られていたと感じましたが、はたして日米関係だけがねらいなのでしょうか。アメリカの西太平洋軍事戦略を見ると、エアシーバトル構想にしても、オフショア・コントロールにしても、むしろ直接的な米中対決を避ける、あるいは限定的衝突におさえる方向と思われます。議会の政府答弁ではたえず、米軍と自衛隊の共同行動が強調されていましたが、米軍の手先論、肩代わり論、米国は日本を見捨てる論など、さまざまな想定が国会外では語られています。


アメリカと中国の軍事戦略が語られることが多いわりに、日本政府はどう考えているのかが見えていない気がします。もちろん在外邦人の救助のためにだけ安保法制が作られたはずはありません。はたして、安倍政権はどのような軍事戦略を持っているのか、あまり報道もされず、議論にもなっていませんが、安倍晋三氏が首相再任直前に書いたと思われる「セキュリティー・ダイアモンド構想」という論文があります。国内向けに語られた構想ではなく、原文は英文です。関係する諸外国に向けて書かれたメッセージと言えます。


http://ameblo.jp/et-eo/entry-11791992597.html (原文、和訳、動画が掲載されています)(このサイトを含めて、紹介しているのはほとんどが安倍構想を賞賛する側からの発信ですので、一部差別的な表現が含まれます。)


集団自衛権は日米同盟にとどまらず、中国封じ込めを目的に、韓国、フィリピン、ベトナム、オーストラリア、インドまでをも考えているということです。東アジア、東南アジア諸国には、日本軍の侵略・植民地政策の記憶が強く残っていて、日本との軍事同盟、自衛隊の進出に対する嫌悪感があります。同時に、東南アジアには中国の進出に対する警戒心も強く、国民感情と国防政策の間にジレンマがあると思われます。米軍が直接的関与を弱める方向を見て、地域軍事同盟の要望は高まるでしょう。既にフィリピンとは基地使用などの関係が進み、オーストラリアとは潜水艦製造など、関係強化が進んでいます。


こんな状況の中で、今年は天皇皇后のフィリピン訪問が行われました。戦争を反省し平和を願う親善強化と歓迎する論調が多いのですが、同時にフィリピン国民の中にある「日本軍」に対するアレルギー解消という副次的効果については語られていません。国内における発言と違い、外国での言動は、ご本人の意図とは別に、その及ぼす効果、結果を冷静に見る必要があります。


今後、出来ればこのサイトで、米中日の西太平洋軍事戦略の、過去から現在への変化を追ってみたいと思います。軍事を理解することによって、軍事によらない平和構築の方向性を考える一助にと願います。


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Commented by 桑原倫子 at 2016-03-25 22:06 x
「セキュリティ・ダイヤモンド構想」は、軍人がイメージするシナリオです。周囲の諸国といかに友好と平和を保つか考えるのが首相の務めだということを忘れてますね。寺山さん、こちらも目を通しておくと良いですよ。http://www.tkfd.or.jp/files/doc/chinas_military_and_the_us-japan_alliance_in_2030.pdf
Commented by karuizawa9 at 2016-03-26 09:40
桑原さん、コメントありがとうございます。陸上自衛隊の論文、ちょっと覗いて見ましたが、海上自衛隊幹部学校戦略研究に較べるといくらか広範囲で時間的にはゆっくり観ているのでしょうか。セキュリティー・ダイヤモンド構想自体は、軍産複合体・ジャパンハンドラーズにコントロールされているでしょうが、オバマや米軍の考えとは少し違って、安倍の独自色を出したかった面が含まれていると感じます。大統領選挙の結果にもよりますが、米軍はこの構想よりさらに関与を弱めたいと考えているのではないでしょうか。そこに、集団自衛権の危険性を、日米同盟から東・東南アジアに広げて考える必要を見ています。
Commented by 桑原倫子 at 2016-03-26 22:17 x
 陸上自衛隊は用意周到・責任不在、海上自衛隊は積極果敢・支離滅裂といわれますから、戦略研究にもその性格が反映しているのでしょうね。
 さて、「インド太平洋」概念に焦点をあてた論考を紹介します。
 山本吉宣(PHP総研研究顧問)は、インド太平洋をめぐる言説や各国の立ち位置の違いを整理しています。日本における議論をまとめた神谷万丈(防衛大学校教授)の論文は、米国と異なり日本ではインド太平洋が海洋を中心に理解されていることなど、日本におけるインド太平洋理解の特徴を論述しています。八木直人(海上自衛隊幹部学校教官)の論文は、エアシーバトル、オフショア・コントロール、アウトサイド・インといった米軍の作戦構想を米国のインド洋戦略と連関しながら論じており、これらの作戦構想がインド洋と太平洋の戦略的な連関性の中にどう組み込まれるのか論述しています。菊池努(青山学院大学教授)の論文は、インド太平洋における秩序形成を考える上で、インド、インドネシア、ASEAN、豪州などの自ら秩序形成の主体にはならないものの、無視できない国力や地理的位置を有する「Swing States」との連携が必要という視点を打ち出しています。海洋秩序論、地域安全保障複合体論という観点からインド太平洋を論じた納家政嗣(上智大学特任教授)の論文は、海洋は陸地ほど均衡行動への誘因が大きくないなどの議論を展開しています。
http://www2.jiia.or.jp/pdf/resarch/H24_Asia_Security/H24_Asia_Security.php
 日本外交はインド洋を含まざるを得ないわけですが、どのようにそれを実現していくべきか、力(軍事)ではなく政策的な方向性の確立が急務です。
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by karuizawa9 | 2016-03-20 08:36 | 会員投稿 | Comments(3)